さてさて、先週の競馬も結局は当方の本命コスモヴァシュラン君は最後着と、こちらのほうが背筋が寒くなる様子である。
やれやれ、困ったもんだ。まあ、わかっちゃいたけどね?
結果のほうはほぼ予想通り、とはいえ、トウカイメロディがまさかあれほどのパフォーマンスを見せるとは思ってもいなかった。
どうやらこれで本物か?
ただ、惜しむらくは今回使ってしまった事。
こっから休養に入ってぶっつけで菊らしいが、残念ながらそこまでGⅠは甘くない。
陣営の描いた絵としては、菊がダメならステイヤーズSで賞金を加算し有馬、といったところだろうが、そこまで上手くいくかなあ?
有馬向きの馬ではあると思うのだが。
まあ、来年に期待といったところだろうな。
相も変わらず暑い日が続くここ札幌である。
朝夕は随分と過ごしやすくなってきて、いい塩梅ではあるが。
まあ、どうやら全国的に暑い様子である、京都で四十度近くまで行ったんだって?
すげえなおい。熱帯雨林が出来そうだ。
そんな日々、当方は先日ふらりと近くの古本屋で文庫の渉猟などしゃれ込んだ。
戦利品は一冊のみ、菊地秀行の
『幽剣抄』
である。
さて、菊池秀行氏である。
どっかで聞いたことあるんだけどなあ・・・。
と、扉を開くとプロフィールが載っている。
デビュー作は『魔界都市<新宿>』、その後『吸血鬼ハンター”D”』、『魔界医師メフィスト』『魔界都市ブルース』などのヒット作を産み出す、とある。
・・・んん?
随分と魔界が好きな人だということはわかった。
吸血鬼ハンターDって、むかーしそんなアニメを見たことがあったようななかったような・・・?
内容までは覚えていないが、そうか、その原作の人なのか。
どちらかといえば、ファンタジー畑の人なのかな。
まあ、いかにも曰くありげなタイトルである、裏表紙のト書きにも怪談時代小説のようなことが書いてある。
時に、当方という人間は、ホラー小説というものが嫌いである。
ああいったもののどこが面白いのかサッパリ解からぬ。
以前、人に進められた有名どころの数冊を見繕って購入した事があるが、まあ小説としては下の下なシロモノばかり、文体は薄い上にくどくどしく、正直これが商業レベルで通用する業界とジャンルいうものの存在意義すら疑ったほどである。
そこからはひたすら忌避、というよりは無視して生きてきた次第である。
まあジャンルが悪いわけではない、書いた人間がクズなのだということはわかっている、ちゃんとした人がしっかりとした技量を下敷きにまじめに書けば、すばらしいものも出来上がるのだろう。
きっとな!
そんな当方がなぜこのような小説を?とお思いの向きもあるだろう、作者すら知らないのに・・・だ。
まず一つはその文庫の扉絵。
着流し姿のざんばら髪の、抜き身を引っさげた顔色の悪い男が口元からわずかに血を流してこちらを見つめている。
その絵が───なにやら大層魅力的に映った事。
そして裏のト書きに書かれている小説ジャンル。
曰く「傑作時代小説怪異譚」とある。
じぶんで傑作言うな、とも思うが大切なのはそこではない。
頭に”時代小説”がついているところだ。
かの池波正太郎氏も鬼平犯科帖で「大川の隠居」という一種の怪異譚を挟み込むように書いている。
当方は、ホラー小説は嫌いだが、怪談、怪異譚は大好きである。
どこが違うのか、と問われれば、ニュアンス、としか言い様が無い。
ラフカディオ・ハーンの怪談が嫌いな人間などほぼいないであろう、前述の池波氏しかり、やはり書き手の確かな技量が必要なのである。
そして、少なくとも当方の知る限りにおいて、ホラー作家と名乗る近々の存在にその技量を持つ人間は存在しない。
まあ、キングなんかは別格である。
あそこまで行けばたいしたもんだが、あれは完全に彼のオリジナルでありキャラクターである、キングを真似たところで本物を越せないのは当然のことだ。
まあ兎に角だ。
そんなこんなでいろいろなものにひきつけられて、この文庫を何百円か出して購入したわけである。
さて、家に帰って飯を食い、そういえばと思い出したようにつらつら眺めて仰天した。気付くと二時間が経過していたのである。
これは・・・本物臭い。
小説の技量筆の力作法もさることながら、初めての時代小説とは思えぬほどの落ち着きである。
筆が乱れる事が無い、淡々として重厚でもあり、そして軽妙でもあり、兎に角流れるような筆致とまた物語構成の上手さはまあ近頃類を見ないほどの上手である。
べた褒めだなあ、当方。
しかし、それくらいの価値は、この短編集には十分にあるだろう。
上質の短編5本の間に更に短い4本の超短編を挟み込み、面白くそして飽きも感じさせず、この構成の見事と言うより他は無い。
ここまで全く聞いたことも無い作家さんであったが、思わず昔の作品を取り寄せしたくなってしまった。
まあ、既に三十年も作家生活を続けていて三百もの本を出している大ベテランである、ここまでこの世界で生きてこられるのだ、実力は折り紙つきで固定ファンもついているのだろう。
それにしても・・・ここまでの作家さんを全くといっていいほど知らずに生きてきたとは。
いまさらながら世の中は広いと思い知らされる。
遺憾であり、慙愧に堪えないというやつだ。
まだまだ暑い秋の夜、時には上質な怪異譚はいかがであろうか?
背筋の寒くなることうけあいだ。
当方がこの短編集の、一番の印象に残っているのは、前述した超短編の一本
『茂助に関する談合』
である。
多くは語られないが、なにやら背筋にうそ寒いものを感じたのは確かである。
是非、お勧めしたい、まさに傑作である。
PR